小春日和の旅 姫越山

師走ともなれば世間は何かと慌ただしい、されどひとり暮らしの僕は
何を準備するでもなく普段と変わらぬ毎日。

窓ぎわの日溜りでコタツに足を突っ込み山行計画やら調べものやら
i Pad Air とにらめっこ。

錦湾

これは三重県の南部、大紀町の錦湾。ブリの養殖で知られる小さな漁港だ。

熊野灘の沿岸はリアス式海岸で天然の良港が多くあり、小さな島々や岩礁が
美しい景色を造り出している。

先月は日本海の青葉山であったが、今月は太平洋に臨む姫越山に出掛けた。

ウバメガシ林

伊勢湾自動車道から紀勢自動車道を快適に飛ばし大紀町へ。
我が家からおよそ2時間、車を降りると直ぐに潮の香りがした。

姫越山(ひめごやま)へは津波避難所へ上がる階段が登山口となっていた。 
いきなり急登から始まる登山道、両サイドはウバメガシの林であった。

こうした暖かな沿岸地のやせ尾根にはウバメガシがよく見られる。
ウバメガシは「姥芽樫」と書く。 名前の由来は諸説あるようだが、 
芽出しの頃の若い葉が新鮮な緑ではなく茶色をしているからだとか。

ドングリ

行けども行けども見事なまでにウバメガシの純林が続き、登山道には
おびただしい数のどんぐりが落ちていた。

ウバメガシは刈り込みに強く生け垣としても使われるが、よく知られているのは
良質の炭「備長炭」になることだろう。

では、ここで備長炭にちなんだ鼻高々になる知識をふたつ。
備長炭の原木はウバメガシだけでなく少量だがアラカシなども使われるという。
そもそも備長炭とは和歌山の特有の窯で昔からの製法で生産されたものだけが
紀州備長炭と呼び原木が何であるかの規定はないそうだ。

そして、備長炭の名は紀州田辺の木炭商である中屋右衛門のに由来する。
なるほど、もともとは長右衛門さんが売っていた炭だったんだ。

アツミカンアオイ

今の季節、やせた尾根に花を見ることはほとんどない。
唯一見れたのはこの植物、アツミカンアオイ(厚身寒葵)だった。

カンアオイの葉はどれを見てもよく似ているがアツミカンアオイは
葉の葉脈に沿って凹むため直ぐにそれだとわかる。

カンアオイの花

カンアオイの花は独特である。 自身の葉に隠れ地面すれすれに花を咲かせる。
しかも目立たぬ色彩で息を潜めるように。 それにはどんな意図があるのだろう?

花粉の媒介は小さなキノコバエで、種子を運ぶのはアリだという。
アリの行動範囲は狭く種子が遠隔地に運ばれることはない。従って、カンアオイは
地域ごとに固有種が存在する。 前回の青葉山ではエチゼンカンアオイを見た。

姫越山

登山口からわずか2時間ほどで姫越山の山頂に着いた。 さほど広くない山頂
スペースであったが展望は抜群、海を見ながらお弁当タイムとした。

海辺の山は風があると寒いだろうとザックにはダウンを忍ばせてきたが
今日は出る幕無し。風はなくまさに小春日和、気持ちの良い登山となった。

芦浜と池

眼下に見える熊野灘、弧を描く海岸線が芦浜で緑に囲まれた池が芦浜池だ。
 
むかし、むかし、芦浜池は海とつながりひとつの湾であったが海流が運ぶ
砂によって砂洲が築かれ、やがて塞がってしまいできた海跡湖である。

姫越山の魅力は登山に加え、その先の芦浜と芦浜池まで巡るコースにある。
内陸部の山にはない海の展望が楽しめ、海岸線を歩く解放感も味わえる。
山頂ランチを終えるとさっそく海へと下った。

芦浜

姫越山から下ること1時間30分、意外と早く芦浜の海に出た。
人っ子ひとりいない静かな海岸が広がっていた。 

この浜に続く道路はなく、海から船で入るか僕たちのように徒歩で山を越えて
来なければならない。 それゆえ人影はなくプライベートビーチ的な浜である。

ここは中部電力が原子力発電所を計画して住民の反対により断念した場所だ。

芦浜から姫越山

白砂青松、日本の自然はこんなにも美しいではないか。
あのおぞましい原子力発電所なんていらない。 
放射能に汚染され、人が住めない場所があるなんてありえないだろ。
原発建設は天に唾吐く行為である。

絶えず聞こえる潮騒、波打ち際は砂浜ではなく小さな小さな砂利の海岸だった。
そのせいか寄せる波は小石を転がし波音が大きく感じられた。

登山靴で海岸を歩くのも不思議な感じであったが、何故か心浮き立つ自分が居た。
広い海に解き放たれた解放感か、面白い遊びをしている満足感か、何だろう。
振り向けば今、下って来た姫越山も微笑んでいるかのようであった。

ハマナツメ

この芦浜池で是非見たいものがあった。 それは希少種のハマナツメだった。
高さは3mほどの落葉低木で東海地方以西の沿岸地、湿地や海跡湖周辺に
見られる植物だ。 果実はコルク質で海流によって運ばれる。

それらしき木を探して芦浜池に近づくと池を囲むようにハマナツメがあった。
若い枝は稲妻型にジグザグと曲がり葉の付け根には鋭い刺を持っていた。

僅かに残っていた果実を見つけ手に取ると予想外に小さいものだった。
こんな小さな果実が黒潮に乗ってどこからこの地に着いたのだろう?

海跡湖

気の遠くなるような年月を経て砂洲は湖を造り、そこに安住の地を求めて
やって来たハマナツメ。 この大切な自然を壊してはならない。 

日本海側にも太平洋側にもまだまだ知らない面白い木々や草花がたくさんある。
季節を変えて来たらまた何か見られることだろう。 次回が楽しみな山となった。

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小春日和の旅

 入江から外洋に連なる島々を俯瞰する最初の写真は、日本の代表的な風景の一つだと思います。
 私はドングリを見るとつい拾いたくなりますが、拾って”ホラ、ドングリ!”と言って見せるのですが、外国の人達はあまり興味がないようです。ドングリのことは知っていてもなじみがないのではないでしょうか。きっとドングリの実のなる木が身近にないと想像しますが
カシの木は照葉樹ですか?
 備長炭の名の由来を知ることができ勉強になりました。
 浜辺を歩くと解放感が味わえるということですが、昨日見たテレビの世界街歩きのフランクフルト編で、街を流れる川でボート漕ぎを楽しむ高齢者グループの代表である93歳のおばあちゃんが、水に浮かぶと解放感があると同じようなことを言っていました。本来の生命のリズムを取り戻す働きがあるせいではないでしょうか。
 ハマナツメの移住先でも身を守るための鋭いトゲで防備を怠らない姿を見て参考にしたいと思いました。
 最後の芦浜池の写真を見ると、小春日和の透明な空気感がただよってきます。

こんにちは。

山を越えないと行かれない砂浜いいですね。
姫越山自分も行ってみたいと思いました。
年末年始は万座温泉のスキー場で働きます。
年が明けてたら一旦関東の実家に寄って、10日ころ東海に戻る予定です。
少し早いですが本年も大変お世話になりました。よいお年を。

池澤範敏
プロフィール

杉浦直樹

Author:杉浦直樹
『自然塾』塾長の杉浦直樹です。
日本自然保護協会
自然観察指導員

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