2015年 夏山

今年の夏は連日の猛暑にうんざり、日本の夏はこんなにも暑かったか。
オニヤンマを追いかけクワガタを探して遊び回っていた子供の頃、
夏休みはこんなにも暑くはなかったように思う。

地球温暖化のせいで日本列島は年々暖かくなっているのか。
はたまた、体力が衰え暑さに追いついていけなくなったのか。
う~ん、後者はあまり考えたくないなぁ。

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大人になって迎える夏はいつも山へと逃避行。
先日は3泊4日で加賀白山と西穂高岳へと出掛けた。

加賀白山と西穂高岳? 
妙な組み合わせと思われるだろうが、この二座は意外と近い距離にある。

初日は白山、別当出合から砂防新道を登り室堂山荘に泊まった。

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7月の前半は梅雨や3つ続いた台風で雨の日が多く何本かの山行が流れた。
梅雨が明けてからはずっと晴天続きで僕たち登山者たちを喜ばせている。

白山に登るのは何年ぶりだろうか。 
ガイドを始めた頃は毎年のように花の案内役を務めた。
この山は日本海に近く天候の悪い日も幾度かあった。 しかし、今日は快晴である。

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標高2450mに建つ室堂山荘より見る御嶽山。
思っていた以上に高く水蒸気が昇っていた。
自然は美しさばかりではなく怖さも潜んでいる。

そんな御嶽山を横目に白山御前峰を目指す。

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午前7時30分、白山の最高峰・御前峰2702mの頂に立つ。
あまりの天気の良さに気を良くして登頂後もお池めぐりをする。

白山は高山植物の宝庫、ハクサンコザクラ、クルマユリ、シモツケソウなど
出会う花ひとつひとつに挨拶するかのように、じっくり見て巡った。

さて、ここでひとつお勉強。
下の2枚のクロユリの写真を見て何か気づくことはないだろうか?

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1枚目のクロユリは雌しべと雄しべを持つ両性花。
2枚目のクロユリは雄しべだけの花、気づいたかな?

2枚目の雌しべを持たない花は当然のことながら結実できない。
では、なぜ雄しべだけで花を咲かせるのだろう。

植物は自家受粉を繰り返すと繁殖力が衰える。
他の血を入れることで強くなれる。

雄しべだけの花はクロユリという種の存続のために咲いている。
自然界に無意味なことは何ひとつないのだ。

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こちらは足下に咲いていたヨツバシオガマの変種で、クシバシシオガマだ。 
花の上唇が鳥のクチバシ状に長く伸び、その部分の花色が濃いのが特徴。

動物にしても植物にしても生物には「生存」と「繁殖」という2大テーマがある。
自然界は弱肉強食の世界、まず優先されるのは生き残ること「生存」で、
次に自分の子孫を増やすこと「繁殖」が重要となる。

クチバシシオガマも他と違う形を選んだのは僕たちには想像できない
何か理由があるのだろう。

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下山は同じ道を帰らず、黒ボコ岩から観光新道を下ることにした。
駒ヶ池小屋の手前「馬のたてがみ」辺りに高山植物が多く見られるからだ。

ここにはたくさんのカライトソウ、ハクサンシャジン、タカネマツムシソウなどを
見ることが出来る。 ただし、急坂なので登りには使わないほうがいいだろう。

たくさんの花に魅了され午後2時、別当出合に無事下山した。

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白山は石川県と岐阜県の県境に位置する。 
その北側には日本屈指の山岳道路「白山白川郷ホワイトロード」が走る。
馴染みのない名前だが旧の名は「白山スーパー林道」である。
これを使えばすぐに岐阜の白川郷へと入ることが出来る。

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世界遺産である合掌造りの集落は白川郷、菅沼地区、相倉地区と主に3つある。
今回、僕たちは五箇山の相倉にある合掌造りの民宿に泊まった。

合掌造りと呼ばれる家屋はこの地方だけの形式で雪深い土地ならではの
強固な造りと生活と作業場をひとつにした合理的な建築だそうだ。

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数年前にも合掌造りの民宿に泊まったことはあったが、黒光りした太い大黒柱に
どっしりとした梁、これが釘ひとつ使わず建てられているのには驚愕であった。

囲炉裏の炭火で時間をかけて焼いたイワナは骨まで軟らかくとても美味であった。

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翌朝、五箇山から菅沼集落に寄り高山へ、そして新穂高温泉へと移動。
ロープウェイはたった7分で僕たちを標高2156mの稜線へと運んだ。

西穂山荘

3泊目の宿・西穂山荘の朝、下界の暑さなど微塵も感じられない清々しさ。
今日も快晴、展望は言うこと無し大パノラマだ。 山の天気は晴れに限る。

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笠ヶ岳から抜戸岳さらに弓折岳までの岩稜がすぐ隣にあった。
その奥には双六岳、黒部五郎岳の姿も見られた。

南西には昨日登った白山も目にすることができ皆、感慨ひとしおであった。

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南を見れば活火山・焼岳の荒々しい山容、その後ろには所々に雪を残す
乗鞍岳が静かに横たわっていた。
東を見れば上高地の壁となる霞沢岳と六百山、真下には梓川と帝国ホテル。

重い荷物を担ぎ樹林帯を汗して登らなければならないが、ここまで来なければ
得られない清涼感、そして達成感、人は苦しくともまた山に登ることを拒まない。

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僕たちが目指す西穂独標までは小屋から展望の稜線を1時間30分。
朝の爽やかな空気を胸に壮大な北アルプスの峰々を望みつつ歩いた。

山に夏の終わりを告げる花トウヤクリンドウの彼方に西穂独標が見える。

すると、抜きつ抜かれつ僕たちと前後して歩く熟年グループがいた。
彼らの会話から長く山を登っている人たちだと推測できた。

ここは深山であるがロープウェイがあり熟年登山者でも独標までは容易に
登ることが出来る。 とても楽しそうに登られていたのが印象的だった。

スローライフと言うが、歳を重ねても自分の趣味に生きられたら最高だ。
西穂は交通の便利さ、小屋の快適さ、展望の良さ、すべてで合格点だった。

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涸沢カールの紅葉

穂高の涸沢へ紅葉を見に行くツアーが出た。 毎年、秋の恒例行事である。
どこの山頂を踏む訳でもなく、ただ涸沢カール内を巡る2泊3日のツアーだ。

澄んだ青空の下、雄々しくそびえる涸沢岳と涸沢槍をカールより仰ぎ見る。
今年は好天に恵まれはしたが・・・・、 紅葉は・・・・、

涸沢岳

自然環境の厳しい深山にあって紅葉が本当に綺麗なのは3~4日間だけ。
どんぴしゃりの日にはなかなか当たらないものだ。 

ご多分にもれず今年も紅葉のピークはすでに過ぎていた。(2014年10月10日)
今年はどこの山も紅葉が早かったようだ。

屏風ノ頭

本谷橋からは少々きつめの登り、ダケカンバとヒロハカツラの黄葉が目を引く。
やがて目の前に奥穂と前穂の吊尾根が現れ、涸沢ヒュッテの吹き流しを目にする。
この吹き流しでカール内の風向きや風速を目視する。

涸沢ヒュッテの手前、石段の登山道より後ろを振り返り屏風ノ頭を望む。
ナナカマドの葉は殆どが散り落ち、赤い実だけが秋空に取り残されていた。

前穂北尾根

涸沢へは2007年の秋から毎年出掛けており、今年で8年連続であった。
紅葉の当たり外れはあったがおおむね秋晴れの良き日に登ってきた。

アルピニストの誰もが一度は見たいと憧れる涸沢カールの紅葉。
氷河が削り出したすり鉢状の谷を山の草木が鮮やかに彩る。
白い冬を前に最後の力を振り絞り燃えるがごとき生命の輝きに見える。

僕もあと何年ここに足を運ぶことが出来て、この景色を見られるだろうか。
最近はそんなことを考えるようになった。

たぬき岩

前穂高岳の山頂から北東へ伸びる北尾根には8つのピークがある。
その6峰の北斜面に面白い岩を見ることが出来る。 通称「たぬき岩」だ。

カール側から見るとぽっこりお腹がよく目立ち、すぐにそれと分かる。
満月の夜、涸沢ヒュッテで寝ていると「しょ、しょ、しょじょじ、しょじょじの庭が」の
狸ばやしが聞こえてくるとか。

今週は6日に十三夜の満月、8日に皆既月食と天体ショーが続いていた。
さぞや狸も忙しかったことだろう。 「ご苦労さま!!

筋状のモヤ

涸沢カール内のパノラマコースを周遊してヒュッテに戻るとにわかに冷えてきた。
そして夕刻4時30分、カール内にひと筋のモヤが静かに立ち始めた。

涸沢ヒュッテと奥穂岩壁との間、それは白い竜が忍び寄るようなモヤだった。

展望テラス

夕食後の5時30分、そのモヤはヒュッテ周辺にも立ち込めて夕焼けを映し取り
茜色へと染まっていった。

ヒュッテの屋根へと張り出されたウッド・デッキ「展望テラス」に集う登山者たち。
涸沢ヒュッテの名物は「おでん」。 北穂の岩稜を眺めながらいただく生ビールと
温かなおでんは格別であり、登山者にとって至上のひと時だ。

ただ、夕陽が奥穂の稜線に姿を消すとカール内は急激に冷え込み、かなり寒い。
ダウンを着込んでの宴となる。

あかね色

陽が沈む西側は標高3190mの奥穂高岳の岩壁が立ち並ぶ涸沢では
すぐに日没がやってきて、なかなか夕景を楽しむ環境ではない。

しかしこの日、薄いモヤまでも染めた茜色の夕景はとても幻想的であった。

涸沢カールでの一大イベントは奥穂の岩壁が赤く染まるモルゲンロート(朝焼け)
を見ることで、幾度となく見てきたが夕焼けをしみじみ鑑賞した記憶はなかった。

穂高の月

毎年、紅葉時季の小屋は超過密状態、週末は1組の布団を3名で使うほどである。
夜中にトイレへ行って帰ってくると寝る場所がなくなっていると言う話はよくある。

睡眠不足となる紅葉ツアー、ガイドは百も承知でシュラフを持参して安眠を確保。

翌朝5時45分、月は奥穂高岳と涸沢岳の間にあった。

白出のコル

一晩中、穂高とたぬき岩を照らした月は間もなくその役割を終えようとしていた。

都会で見る月より山で見る月はひときわ美しいが、なぜか物寂しさを感じさせる。
周囲に人気や賑わいがないせいだろうか、 張り詰めた空気のせいだろうか。 
何はともあれ月は静寂の中で見るがいい。

6時9分、十三夜から4日目の月は穂高岳山荘が建つ白出のコルへと沈んでいった。

秋の八ヶ岳縦走

山の動物たちに逢いに行ったその2日後、再び八ヶ岳へと向かう。
3泊4日の「八ヶ岳縦走ツアー」のガイドだった。

美濃戸口の「八ヶ岳山荘」に前泊して四国・愛媛のお客さん9名を案内した。
ツアー中の4日間は晴れ、雨は一日もなかった。 (2014年9月25日~28日)

南沢の紅葉

この日も快晴、南沢の紅葉を楽しみつつ行者小屋を経由して文三郎尾根を登った。
鉄製の階段にクサリの付けられた急な岩場と、少々きつい登りであるが振り返れば
北アルプスの山々を見ることができた。

赤岳山頂

午後1時、八ヶ岳の主峰・赤岳(2899m)に到着。
後ろの山影は南アルプス、仙丈ケ岳に甲斐駒ケ岳が見える。

八ヶ岳は昨年も2回登ったが、個人的にも大変好きな山である。
6月には夏山一番に咲くツクモグサやホテイランが見られ、7月にはウルップソウや
コマクサやチョウノスケソウなどたくさんの花が見られる山だ。

朝の富士山

「赤岳頂上小屋」に泊まり翌朝、秀麗富士を望む。
世界中のどこを探しってもこれほど美しい姿を持つ山はないだろう。

JR松山駅から9時間もバスに揺られてやって来られた甲斐があったことだろう。
今回は登山行程もゆったりで心余すことなく山を楽しむことが出来る。

赤岳

横岳から赤岳、中岳、阿弥陀岳を望む。 夏山もいいが、秋の山もまたいいものだ。
空気は澄み、空がどこまでも青くて遠くの山並みがくっきりと見える。

横岳のハシゴやクサリ場に神経を使いながらも中央アルプス、御嶽山、乗鞍岳、
北アルプスの遠望を楽しみながら硫黄岳に向かった。

夏沢峠

硫黄岳からは夏沢峠へと下り、峠でお弁当の時間を持った。 時刻は11時40分。
この10分ほど後に御嶽山で水蒸気噴火が起こったことになる。

峠は鞍部にあり風の通り道だが、その日は風もなく食後のお昼寝を誘うような
暖かい気候で皆さんのんびりと寛いでいた。

最終日は「本沢温泉」に宿泊。 外湯「しゃくなげの湯」の建物の前ではカモシカが
草を食んでいた。 数人の登山者がカメラを構えるも平然としたものだった。

カモシカ

そして、御嶽山の噴火を知らされる。 
先程まで稜線から眺めていた穏やかな御嶽山である。 大変な驚きであった。 

ひと山違えば僕もあの噴煙の中にいた可能性がある。 実際に昨年の10月初めは
御嶽山のツアーガイドをしていた。

噴火予知ができなかったこと以外にも幾つかの要因が重なり犠牲者が多くなった。
秋の行楽シーズンであったこと、週末の土曜日で晴れていたこと、さらに登山者が
ちょうど山頂に到達する12時頃であったことなどが偶然にも重なった。

噴火が冬や春であったなら、週末ではなく平日であったなら、また夜間であったなら、
そんなに多くの犠牲者は出なかっただろう。

同じ山を愛する者としてこの偶然は残念でならない。 
小さな子供も、前途ある若者もおられた。 只々、ご冥福を祈るばかりである。

爺ヶ岳・鹿島槍ヶ岳

今年の夏は天気が不安定で雨がとても多かった。 
お盆休みを狙って来たかのような台風に豪雨であった。

不安がよぎる中、8月16日~19日で爺・鹿島槍ヶ岳のツアーガイドに出た。
3泊4日で初日は移動のみで、2日目に扇沢の柏原新道からの登山だった。

登山口は朝から雨で時々、響く雷鳴と稲光におびえながら樹林帯を登った。
何とか無事に種池山荘にたどり着き、様子見の一時待機をした。
予定変更も考慮したが午後からは雷雨も止み曇り空へと変わった。
行程表どうり冷池山荘へと向かい翌日、鹿島槍ヶ岳を目指した。

爺ヶ岳

早朝、冷池山荘を出発。 幸いなことに天気は徐々に回復していった。
3つのピークを持つ爺ヶ岳の山頂部も見え、その後ろ右に蓮華岳も見える。

稜線

この写真は鹿島槍ヶ岳の山頂から南の方向、爺ヶ岳への登山道を撮ったもの。
東側の信濃大町から湧き上がったモヤが西側から吹き付ける風に押し戻され
稜線で左右の違いがはっきりと分かる。

数年前、この稜線を東から西へと越えていこうとする大量の蝶を見たことがある。
渡りをする蝶で知られるアサギマダラの群れだった。

強い風に何度も何度も押し戻されながらも懸命に稜線を越えようと舞っていた。
標高2500mを超える山で見た感動のシーンだった。

クジャク

今回も何頭かのアサギマダラを見掛けたが、その様子は渡りではなく稜線の
お花畑を遊んでいるかのようだった。

アサギマダラと同じくよく見掛けたのが写真の蝶、クジャクチョウだった。
下界では見られない高原の蝶で、エンジ色の前翅と後翅に4つの孔雀紋を持つ。

大きな瞳にブルーのアイシャドウ、その妖艶な姿から日本産クジャクチョウの
亜種名は「芸者」と呼ばれる。

クジャクチョウ

さらに驚かされることにこの蝶は鳴くのである。
いつか大菩薩嶺の稜線でアザミの花にとまったクジャクチョウを見ていた時のこと
同じアザミにやって来たハナアブに対し鳴いて威嚇した。

蝉が鳴くのと同じように翅を摺合せ、シャッ、シャッと音を発し威嚇したのだ。
それを鳴くというのだがそんなことをする蝶を他に知らない。

キバナノカワラマツバ

これはキバナノカワラマツバ(アカネ科)の花。 松葉のような葉が輪生する。
鮮やかな色彩の花は当然よく目立つが、砂礫の多い高山においては地味な
花であっても目に留まる。

8月中旬とは言えまだたくさんの花が稜線を彩っていた。
ミヤマキンポウゲ、チシマギキョウ、ウサギギク、ミネウスユキソウ、コマクサなど。

シナノナデシコ

こちらはひときわ鮮やかなシナノナデシコ(ナデシコ科)の花。
南アルプスではよく見かけるが北アルプスでは少ない。
タカネナデシコも繊細できれいだがシナノナデシコの色合いもまたいい。

タイツリオウギ

これは果実の形が面白いタイツリオウギ(マメ科)の花。
夏の終わりに果実は赤褐色になり、釣り上げた鯛のような形になる。

今回のツアー中に北アルプスでは沢の増水により遭難事故もあった。
大雨や雷で登頂を断念したパーティもあるなかで全員が無事登頂し下山した。
ただ、ただ幸運であったように思う。 山の神様に感謝!!

神様は遊び上手/大雪山の花

夏山シーズンを迎え、何かと身辺があわただしくなってきた。
そんな時、こんなニュースが飛び込んできた。 『北海道・十勝岳が噴火か?』

「大雪山と十勝岳縦走」3泊4日ツアーの直前のことだった。
「おい、おい、それはまずいぞ。」
案の定、十勝岳はしばらくの間、入山禁止の措置がとられた。

エゾノツガザクラ

2012年7月6日、「十勝岳」を「富良野岳」に変更してツアーは出発した。
大雪山は花の山、毎年楽しみにしているツアーである。

今年はどんな花が見られるだろうか。 ナキウサギに逢えるだろうか。
ウスバキチョウは舞っているだろうか。 楽しみが尽きない山である。

九州地方に大雨が降り続いていた頃、北海道もあまり天気は良くなかった。
しかし、広大な山域を誇る大雪山にはたくさんの花が咲いていた。

アイヌの人たちは大雪山を「カムイミンタラ」(神々の遊ぶ庭)と呼んだ。
かくも広大で、あまりに美しい山である。
今日は「神々の遊ぶ庭」に咲く花の極一部を紹介しよう。

イワブクロと北鎮岳

層雲峡温泉からロープウェイとリフトを乗り継げば、そこはもう黒岳の七合目。
北大雪のニセイカウシュッペ山や屏風岳の山並みが雲海に浮かぶ。
少し歩けばすぐにウコンウツギやチシマノキンバイソウの群生が見られる。

他にはエゾイチゲ、トカチフウロ、チシマヒョウタンボクなど。 そして、こんな花もあった。
これはジンヨウキスミレの花。 漢字では『腎葉黄菫』と書く。
葉の形が人体の腎臓のようであることからジンヨウキスミレ。

5枚の花弁のうち上弁2枚がふっくらと大きく美しいスミレだ。
まるで黄色い蝶が舞っているような錯覚を受ける。

ジンヨウキスミレ

そして、もうひとつ。 葉の上に昆虫が遊んでいるような花があった。
これはチシマヒョウタンボク(スイカズラ科)の花。 

花は二つ仲良く並んで咲くが、子房が互いに癒着しているために
果実になった時にひょうたん形になる。 それでヒョウタンボクだ。

この花にはどんな昆虫がやって来るのだろうか。
「赤いスパイダーマン?」

チシマヒョウタンボク

続いて近くに面白い花を見つけた。

これは皆さんもよくご存知のハクサンチドリだが、葉をよく見て欲しい。
ウズラの卵にあるような黒い班が見られることからウズラバハクサンチドリという。

今回歩いた登山道沿いではこの株ひとつだけだった。 「君だけがなぜ?」

ウズラバハクサンチドリ

黒岳(1984m)まで登ると大雪山を形作る凌雲岳、北鎮岳、北海岳、間宮岳、
そして、旭岳など2000m級の山々を見渡すことができる。

ここからは高山帯の植物に変わりエゾノツガザクラ、イワブクロ、エゾコザクラ、
メアカンキンバイ、クモマユキノシタ、チシマクモマグサなどが見られる。

黒岳石室から赤石川を渡り巨大火口の稜線に上がるとすぐに北海岳だ。
いつもこの辺りでお弁当の時間になるが、ここには僕の好きな花が咲く。

それはシオガマの仲間で唯一黄色い花をつけるキバナシオガマだ。
花数も多いが、鮮やかな黄色も見栄えがある。 大雪山だけに咲く花だ。

この株はあまり鮮明ではなかったが、くちばし状となった花弁の先が
チョコレート色に変わり、その黄色とのコントラストが気に入っている。

キバナシオガマ

お鉢平を眼下に砂礫の稜線を行くと、やがてタカネスミレの群落に出会う。

他の植物が入って来れないような乾燥地帯にただひとり。
ここは僕たちだけの王国と言わんばかり、どこまでも黄色い花が続いていた。

先程のジンヨウキスミレの花と違い、花弁は小型になり葉を厚くして
砂礫の乾燥地に適した造りになっている。

山地帯で発生し、夏になると高山帯のお花畑にやって来るという蝶、
コヒオドシの姿もこのスミレの稜線でひんぱんに見られた。

タカネスミレ

神々の遊ぶ庭には多種多様な色彩と造形を見せる花たちがあった。

それらの花は北の過酷な自然の中で長い時の試練に耐え、
時の流れと共に進化してここにある。
無駄なものは削ぎ落とされ、必要とされたものだけが残り生かされる。

それは長い時間をかけて樽に寝かせ熟成させたワインに似て完成度の高いもの。
もっとじっくりと造りを見てあげてもいい花たちである。

神様は洗練されたものがお好きなようだ。 遊びにも手を抜かない。
「神様は遊び上手」なかなか粋な方である。
プロフィール

杉浦直樹

Author:杉浦直樹
『自然塾』塾長の杉浦直樹です。
日本自然保護協会
自然観察指導員

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