新緑の日本三大渓谷「大杉谷」を歩く

池澤です。晴天の五月、杉浦塾長と大杉谷を歩いてきました。

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季節は駆け足 雨飾山

時は休むことなく針を刻み、季節は静かに移りゆく。
夏山を追いかけていた慌ただしい時はいつしか去り、
秋風の中で紅色に染まる山を旅していた。

今年の紅葉はどこの山も早く、ここ10年ほど通っている涸沢カールも
久しぶりの火打・妙高山も訪れた時はそのピークを過ぎていた。

夏の登山は山頂へ上がることに重きを置くが、秋の登山は登る途中に見る
木々の紅葉や木の実を楽しみながら歩くことが多い。

季節を感じてゆっくり登ることが出来るのが秋の登山の特徴だろう。

ハウチワカエデ

日頃の行いとはよく言うが、この秋は出掛けた日のほとんどが晴天であった。

標高2000mに満たない中堅クラスの山でも3000m級の山に負けない眺望と
美しい紅葉が見られる山がある。
長野県と新潟県の県境にある雨飾山(1964m)がそれだ。

美しい語感の雨飾山という名前は雨乞いをしたことに由来する。
日本海に近く糸魚川の漁師は海からこの山を目印にしたという。

秋の荒菅沢

長野県側の麓、小谷村の「雨飾荘」に前泊して翌日の早朝に出発した。
朝露に濡れた落ち葉を踏み大海川(おおみがわ)沿いの森へと入る。

清澄な朝の冷気を吸い色づく木々を見ながら一歩一歩、高度を上げて行く。
このルートはブナの大樹が林立する「ぶな平」と森を抜けた「荒菅沢」が
休憩ポイントとなる。

7月になっても雪が残る荒菅沢だが、秋はすっかり融けて軽やかな沢音に
少し冷たい風が吹き渡っていた。 まだまだ先は長く、ここからが本番だ。
見上げた雨飾山は鋭い岩峰となり詩的な名前とは異なる姿を見せていた。

ナナカマドの実

雲ひとつない青空を背景にナナカマドの実は鮮烈な赤を呈し際立ってあった。
辺りにも枝いっぱいに実を付けたナナカマドがたくさん見られた。

普通、木の実は赤く熟し鳥を呼び種子を運んでもらうが、この実はなかなか熟さない。
ナナカマドの実はソルビン酸という物質を多く含み腐らずに長く保たれるのだ。

雪が降り出す季節になっても実は枝に残り、艶やかな赤に白い雪を載せた光景は
美しいコントラストを生み写真家さんたちが好む被写体となる。

オオカメノキ

小さな子供が両手を頭の上に高く掲げて遊んでいようなこの写真はオオカメノキ。
真ん中の顔のように見える膨らんだ部分は幾つもの花がぎゅっと押し込まれた花芽。
それを挟んだ左右の手は葉芽である。

オオカメノキは春早く花を咲かせるが、雪深いここでの花期は5~6月だろうか。
その間、半年以上もこの姿(裸芽)で冷たい風や雪に耐えるのである。 
生あるものは何とたくましいことか。

オオカメノキはよく見る木で誰でも知っているが、次の写真の木は何だか分かるかな?
日陰で撮ったので少々見づらいかも知れないが、これは主に日本海側の山で見られる
マルバマンサクである。

マルバマンサク

下向きに数個並んでいるのが花芽で、小さな柿の実のようなものは果実である。
少し割れて種子を覗かせている。

その後ろに見えるいが栗のようなものは虫こぶで、「マンサクノイガフシ」という
アブラムシの一種が寄生しているものだ。

マンサクの果実はとても面白く、乾燥すると破裂して種子を勢いよく飛ばす。
遠くまで種子を散布させる植物の戦略である。

果実が裂開して種子を飛ばす植物の代表にホウセンカやツリフネソウがあるが、
マンサクは強烈で広範囲に飛ばす。 一度採取して部屋で試してみるといい。

笹平より

岩菅沢からやや急な斜面となり、最後に岩場を登り詰めると平坦な「笹平」に出る。
森林限界を超え、足下は一面の笹原が広がると同時に一気に視界が開ける。

高妻山や戸隠山も視野に入り、正面に雨飾山の山頂を見ることが出来る。
登山道を行く登山者の列が小さく見えるが30分ほどで山頂だ。

眼下には空の青さと同じ青い日本海と姫川が流れる糸魚川市街が見られ、
石灰岩の青海黒姫山とロッククライミングで知られる明星山も近くにあった。

焼山

振り返れば頸城三山のひとつ焼山(2400m)が構えており、その山容はいかにも
活火山らしくゴツゴツとした岩肌をむき出しにして仁王立ちをしているようであった。 
その後方には火打山(2462m)の姿も見られた。

緑の笹原より頭ひとつ出た低木には真っ白な霧氷が付着し、それは白い花が咲き
揃ったのかと見間違うほどだった。

紅葉の雨飾山を見に来たはずだったが思わぬ光景と出会うことになった。
季節は駆け足で山に冬を連れて来ていたのだ。

雨飾・山頂

小谷の登山口より登ること4時間。 午前10時30分、雨飾山の東峰に到着した。
狭い山頂であるがどっかりと腰を下ろし、山々を眺めながら弁当タイムとした。

さほど寒さは感じられなかったが、これほどの晴天にも関わらず気温は低いのだろう。
この時間になっても山頂の石の祠に付着した霜は融けずにあった。

白馬方面

雨飾山は静岡・糸魚川構造線を挟み後立山連峰と対峙している。
何も遮るものがなく目の前に白馬岳(2932m)を望むことが出来る。

写真は中央に白馬岳、右に雪倉岳があり、左に杓子岳、白馬槍ヶ岳、五竜岳、
そして鹿島槍ヶ岳と続いている。

かつて、雨飾山でこれほどの晴天に恵まれたことはなかった。 
何度も足を運んでいなければめぐり合えない景色であろう。
 
目の覚めるような紅葉は見られなかったけれど、快晴のもとで
これだけの山々を見ることが出来れば良しとすべきではないか。

玄人好みの山

雨で二度も順延となった個人山行にやっと出掛けることが出来た。

場所は北アルプスで、針ノ木雪渓から針ノ木岳(2820m)、蓮華岳(2798m)、
北葛岳(2551m)、七倉岳(2509m)へと縦走するコースであった。

扇沢

針ノ木岳と蓮華岳はツアーでも何度かガイドをしていたが、蓮華岳から南下して
北葛岳、七倉岳へと回るルートは危険な岩場も多く、長丁場とあってツアーでは
組まれることはなかった。

未踏のコースであったこと、また北アルプスの殆どの山が展望できるコースとの
ことでかねてより画策していたのだ。

針ノ木雪渓

針ノ木雪渓は白馬大雪渓や剣沢雪渓に比べると幅は狭く融けるのも早い。
この時期は雪渓上を歩くよりも夏道を歩くことの方が多い。

ここ数日の長雨でかなりの水が出たのだろう、丸木橋は流され渡渉する箇所を
探さなければならない場面もあった。

何度も沢を渡りスノーブリッジとなった雪渓を高巻きした。

キンポウゲ

雪が残る谷では所々にミヤマキンポウゲやシナノナデシコやタテヤマウツボグサ
など、夏の花が取り残されたかのように咲いていた。

扇沢の登山口よりちょうど5時間、針ノ木峠に建つ針ノ木小屋に着いた。
2泊3日の1泊目は針ノ木岳と蓮華岳の間にあるこの山小屋になった。

針ノ木小屋

年に数回だがお客さんをお連れしない個人山行に出掛けている。
それは自分が行きたい山だったり、危険を伴う山だったり、少しマニアックな
山であることが多い。

従って、同伴者はいつもガイド仲間となる。 今回も10年来の友人とやって来た。

北葛・七倉

標高2536mにある針ノ木小屋の窓から南の山々を見るとこんな感じ (^-^)/

近景は左端に北葛岳、中央のピラミダルな山は七倉岳、そして右に船窪岳と続く。
遠景は左から餓鬼岳、唐沢岳があり、その奥に燕岳、大天井岳、さらに右へ西岳、
前穂高岳、北穂高岳、槍ヶ岳が見える。

山頂

翌朝、空荷で針ノ木岳を往復する。 背中に何も担がないと何故か違和感?
小屋から山頂まではちょうど1時間、午前7時の山頂は快晴であったが風は強く
冷たい秋の風だった。

薬師岳

針ノ木岳山頂から西を見れば剣岳、立山、龍王岳、鬼岳、獅子岳、五色ヶ原、
越中沢岳、そして薬師岳(2926m)と壮大な景色を望むことができた。

ことに薬師岳はすぐ近くにあり、金作谷カールや中央カールまではっきりと見えた。
山は雲が出ぬ午前中が勝負、再び針ノ木小屋まで戻り次の蓮華岳を目指した。

ウラシマツツジ

蓮華岳の尾根より振り返り針ノ木岳を見る。
夏はたくさんのコマクサが咲く蓮華岳、今は真っ赤に色づいたウラシマツツジが
足下にあった。 

秋口の登山は実に快適である。
夏のように額からポタポタと汗が落ちることもなく、空気は澄み眺望が利く。
山小屋も混雑することなくゆっくりと寝ることが出来る。
高山植物は無いが山を楽しみたいのなら断然、秋口がベストである。

爺・鹿島

徐々に湧き立つ白い雲は緑の谷を埋めて尾根へと迫る。
爺ヶ岳も鹿島槍ヶ岳も飲み込んでしまうのか、ふわふわと真綿のような雲だった。
その後ろには五竜岳、白馬岳も見える。

寄せる雲海

日本海に注ぐ黒部川を挟んで西側の薬師岳や立山や剣岳を立山連峰と呼び、
黒部川東側の鹿島槍ヶ岳や五竜岳や白馬岳を後立山連峰と呼ぶ。

その後立山連峰の南端に針ノ木岳と蓮華岳は位置している。
両者は針ノ木峠で東西に対峙し、蓮華岳はどっしりとした稜線を横たえている。

蓮華岳

意外と長い蓮華岳への道。 しかし、空は快晴、心も爽快、晴れて本当に良かった。

ここ一ヶ月は天気予報とにらめっこ「いつまで続くこの傘マーク?」そんな毎日だった。
ようやく3日間の晴れ間を見つけ決行する運びとなった。

自然災害と言うが、川の氾濫によって浸水被害を被った人たちもおられる中で、
その自然が造り出した壮大な景色と遊べることに感謝であった。

大下り

さてさて、今回の登山はここからが本番。
蓮華岳を一気に下る「蓮華の大下り」と呼ばれる過酷な道を進まなければならない。

まずは山頂直下のザレ場をジグザグと下る。 小石に足を取られ転倒しやすいため
絶えず足を踏ん張り、緊張を要する。
これがまた長い下りで、やっと終わったかと思うと今度は岩場の急下降が始まる。

長い鎖

ほぼ垂直のように見える岩壁にそれは、それは長~く垂らされたクサリ。
「人が小さい!!

鞍部となる北葛乗越まで標高差にして約500m下がる。
下れば登る、それが登山。 今度は北葛岳までの長い登りが始まった。

コースタイム2時間30分のところ3時間を要し北葛岳に到着となった。

岩壁

ここまでの内容はあらかじめ想像していたが、次の七倉岳は想定外だった。
北葛岳の山頂で腹ごしらえを済ませると、再び急下降することになった。

「どこまで下ろす気だ!!」と叫びたくなるほど下ろされ、また登る。
しかも岩場あり、やせ尾根ありで幾度となく繰り返されるアップダウン。

もう山頂かなと思えばまだ先があり、今度こそと思えどまだ続く尾根。
七倉岳は簡単と甘くみていた。 このアップダウンに気力も萎えヘロヘロ。
またしても30分タイムオーバーとなり、午後2時45分船窪小屋に着いた。

船窪小屋

タルチョー(チベットの五色の祈祷旗)がはためき鐘の音で宿泊者を迎える船窪小屋。
実はこのコースを選んだ理由のひとつに船窪小屋に泊まってみたかったのがあった。

ここは食事が美味しくアットホームな山小屋だと評判の良い小屋であったからだ。

ランプ

収容人数も少なく小さな小屋だが、小屋を営むご夫婦の気遣いが満載の山小屋だ。
発電設備は無く、灯りはランプのみ、それがまたほのぼのとしたかつての山小屋の
雰囲気を漂わせている。

夕食

夕食はまだ陽のある夕方5時からで料理は手の込んだものがテーブルに並んだ。

メインの天ぷらの食材はカボチャ、ナス、長芋などの野菜に加え小屋周辺の野草
トウヒレンやヤマニンジンなど。 煮物に生春巻きと、手作り感いっぱいである。

小屋は稜線にあるため水がない。 飲料水は小屋から30分離れた水場に汲みに行く。
電源がないため当然のことながら冷蔵庫もない。 食材は岩室で保存しているそうだ。

そんな悪条件の中でこれだけの食事を提供できるのは凄いとしか言いようがない。
いろんな苦労や努力があるだろうが、登山客には終始穏やかに対応をされていた。

いろり

夕食後にお茶の時間があり、宿泊者のみんなにネパールティが出された。

当日の宿泊者は14名ほど、囲炉裏を囲み宿泊者の自己紹介が行われた。
少人数の山小屋ならではの寛ぎタイム。 リピーターが多いのもうなずける。

船窪小屋までの最短コースは七倉から急登の七倉尾根を6時間かけて登ら
なければならないが毎年、小屋だけにやって来る登山者も少なくないと言う。

不動岳

翌朝、空が明るくなるにつれ小屋の前には重畳(ちょうじょう)たる山並みが現れた。
正面には不動岳(2595m)が座り、後方には水晶岳、赤牛岳、さらに奥へと薬師岳、
越中沢岳と果てしない山並みが続いていた。

この小屋の前からいったい幾つの山が見えるのだろう。 
剣岳から前穂高岳まで見渡せる山小屋はそんなにないだろう。

立山

山で最も感動するシーンに出会えるのは日の出時刻と日の入り時刻である。
自然が造り出す光と色の一大スペクタクル。 だが、数分で消えてしまう芸術作品。

この日、高瀬ダムから続く不動沢に薄いベールのような雲が漂い不動岳を包んだ。
雲は水平を保ち、まるで水をたたえているかのようでハイマツは水槽に沈んでいる
藻のようにも見えた。

水槽

今回の山行は雪渓歩きと渡渉にクサリとハシゴの連続する岩登り、
そして時代に取り残されたようなランプの山小屋に泊まる2泊3日の旅だった。

山の魅力がいっぱい詰まったコースではなかったか。
百名山ブームに惑わされない本当に山を知っている人向けのコースであろう。

久しぶりの筋肉痛もさほど苦にならず、秋風に似た爽やかな余韻を持って
七倉尾根を下った。
プロフィール

杉浦直樹

Author:杉浦直樹
『自然塾』塾長の杉浦直樹です。
日本自然保護協会
自然観察指導員

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