水源の森・雲取山

5月下旬、2泊3日で「雲取山縦走と両神山」のツアーガイドに出た。
雲取山は一都二県の分水嶺、東京都の最高峰(2017m)であり
東京都民の水源の森でもある。

初日は約4時間の林道歩き、雲ひとつ無い快晴で暑いほどであった。
小屋までの沢沿いにはトチノキ、カツラ、シオジ、カエデなど渓畔林の
若葉がひときわ眩しかった。

この木も沢沿いでよく見られる樹木で、カバノキ科のサワシバである。
花はすでに終わり、果穂を下げていた。
小さな種子を抱いた緑の果苞がいくつも密に連なり穂状となる。

サワシデの果穂

春と秋、もう何度この道を歩いただろうか。 自然の森はいつも心地よいもの、
今はウツギの花が多く見られた。 その中で際立っていたのはこの花。
黄色い小さな花を囲むように開いた白い装飾花。
それはやがて来る夏の花火を連想させる。 これはガクウツギの花。

ガクウツギ

今日の宿は標高1100mにある「三条の湯」、水が豊富で水力発電機を備え
他の山小屋と違って動力のディーゼル音が無いため、とても静かな小屋だ。

鉱泉によるお風呂もあって、ご飯も薪で炊いてくれるうれしい山小屋だ。
夕食にはいつも鹿肉が出される。
今宵のメニューはロースト・ビーフならぬロースト・ディアーだった。

秋は薪ストーブで暖をとった大部屋、春は開け放たれた窓から
緑のさわやかな風が駆けていた。
夜にはコノハズク(仏法僧)の声も聞かれるとか。
しかし、小屋の快適さにいつも熟睡・・・・その声を聞けるのはいつのことか。

三条の湯

翌朝、鳥の声に送られ小屋を後に雲取山を目指した。
しばらくすると木々の間から富士の姿が見えた。 まだまだ白い富士であった。

登山道脇にはハシリドコロ、ワチガイソウ、イワボタン、エイザンスミレなどが
見られた。 春の花はいづれも小さい、これはミツバコンロンソウ。

コンロンソウは何種類かあるが、この花は葉や花のつき方に特徴があり
その立ち姿が粋で面白いと思う。
本家のコンロンソウは背丈もあり群生し、白い花をたくさん咲かせる。
その白い花を崑崙山脈の雪にたとえコンロンソウの名がついた。

ミツバコンロンソウ

若葉萌ゆる頃、鳥たちは急に忙しくなる。 繁殖の季節である。
若葉を食べる昆虫が発生すると、鳥はそれらを餌としてヒナを育てる。
すべての生き物が季節と共に生きている。
森のあちらこちらで小鳥たちのさえずりが聞かれた。

針葉樹が好きなヒガラの姿も高い梢にあった。 カラ類で一番小さな鳥だ。 
でも、負けてはいない。 命をつなぐ懸命のさえずりであった。

ヒガラ

地上でも次々に新芽の誕生が見られた。 これはオサバグサの芽出し。
亜高山帯の針葉樹林下でよく見る花だが、こんなところにもあった。

分布する山としない山がはっきりとわかれるが、林床に広げたユニークな葉と
すくっと立ち上がった白い花はよく目立ち好きな花である。

櫛の歯のような葉の形が機織りで使う筬(おさ)に似て、「筬葉草」となった。
八ヶ岳と南アルプスではよく見るが一度、帝釈山の群生を見てみたいものだ。

オサバグサ

雲取山は雨の予報だったが、昼過ぎまで降られず山頂に立つことが出来た。
下山すると直ちに両神山へと移動、登山口にある民宿に前泊した。

食卓が皿で埋め尽くされるほどたくさんの料理でもてなしてくれる宿だ。
これは珍しいイワタケで巻いたお寿司。

イワタケはタケの名がつくが、キノコではなく地衣類に分類される。
その成長速度は大変遅く、1センチ伸びるのに2~3年かかるといわれる。
また、標高の高い断崖に生えるため採取は困難で少ないことから
「仙人の食べ物」と呼ばれているそうな。

料理屋さんでは珍味として酢の物やお椀の具に出されるものを
何と、贅沢極まりないお寿司でいただいた。
ふたつ大きさが違うのも山の民宿ならでは、それも味のうちだ。
手近にあったであろうハウチワカエデの葉を敷かれた演出もまたいい。

イワタケのお寿司

最終日の両神山は朝から雨だった。 しかし、幸いにして小雨。
霧に煙った谷間にホウノキやミズキの花が白く浮かんで見えた。

5月、両神山の山頂部はアカヤシオで包まれる。 まだ残り花があるだろうか。
曇りであれ、雨であれ、新緑の森は美しい。 何度も沢を渡り、谷の奥へと進んだ。

これは山地の日陰に群生することが多いシソ科のヒイラギソウ。
一見、ラショウモンカズラに似るが、花の色は濃い青紫色。(またピンボケ)
葉の形がヒイラギの葉に似ることからヒイラギソウ。 絶滅危惧種である。


ヒイラギソウ

雨の日は手元を濡らしてまでカメラを取り出し写真を撮ろうと思わない。
しかし、雨の森には雨の森なりの風情が見られる。
ツアーでなかったならここにとどまり、何を見ただろう。

葉と枝を洗った雨水は幹をつたい落ち葉の下へと吸い込まれていく。
夏の日差しを受けるたくさんの葉を育てる、まさに慈雨である。

雲取山も両神山も「日本百名山」に名を連ねる。
このツアーは2座の登頂を目的とした参加者が多い。
濡れた足下を気にしながら辺りを見ることなく頂を目指す。

深遠なる自然の仕組みを、営みを感じ取った人は何人いただろうか。
人にも潤いとなる慈雨が必要なようだ。

緑を潤す成長の源、それは水源。 人の心を潤す水源は?
それは、それぞれの心の中に涸れることなくあり、
自分自身の手で掘り出すしかないのかも知れない。









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プロフィール

杉浦直樹

Author:杉浦直樹
『自然塾』塾長の杉浦直樹です。
日本自然保護協会
自然観察指導員

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