6月の花紀行

6月は梅雨の季節、遠出を計画しようにも雨が気になりためらってしまう。
まして登山ともなれば尚更のことだ。

しかし、この雨の時季に咲く花はたくさんある。中でも八ヶ岳のツクモグサと
北岳のキタダケソウは文字通り高嶺の花でなかなか出会えない花である。

6月中旬、是非ともツクモグサを見てみたいというお客さんの依頼を受けて
八ヶ岳へと出掛けた。

お天気の神様、どうか私たちに数日の晴れ間をください!!

横岳

切なる願いが通じたのか2日間とも青空で雨合羽とは無縁の登山となった。
遠路はるばる福岡からの旅人に神様が優しく微笑んでくれたのだ。

美濃戸から南沢をたどり行者小屋を経て文三郎尾根を登る。
ハンノキの瑞々しい若葉にミネザクラの白い花が眩しく映る。

シラビソの林を抜け、中岳分岐に立ち横岳と硫黄岳を望みひと休み。

イワヒゲ

稜線の清々しい風を背に「いざ、赤岳へ」 頂上直下の岩場に差し掛かると早速、
高山帯に咲く小さな花たちの出迎えを受けた。
イワヒゲ、クモマナズナ、コメバツガザクラなどが岩の僅かな隙間に咲いていた。

クモマナズナ

そこは標高が高く風や雨や雪の影響を最も強く受ける過酷な場所だ。
そこに生きる植物はどれも葉や花を小さくしてひそやかに咲いている。

野に咲く花はよく可憐と表現されるが高山帯に咲く花たちは健気と言えよう。
葉のサイズの割に花が大きく見えるイワウメの花の直径も約1センチである。

イワウメ

他にもツガザクラ、ミネズオウ、ウラシマツツジ、ミヤマタネツケバナが
岩肌や岩陰にしがみ付くように咲く姿が見られた。

これらの高山植物もまた花期が早く、6月から7月上旬だ。 夏山シーズンが
始まる頃にはその花の盛りは過ぎている。 その理由は何故か?

彼らの暮らす岩場や稜線は山で最も早く冬がやって来る場所である。
それゆえ、早く花を咲かせ受粉しなければ雪が降り始め実を結べないからだ。

イワヒバリ

行者小屋を見下ろすイワヒバリ君。 雌雄同色なのでオスかな、メスかな?
鳥にしては珍しくメスが求愛行動をするらしい。 「イケメンは居たかな?」

6月の平日しかも午後、さすがにこの時間の赤岳山頂は貸切状態だった。
何度この頂に立ったことだろうか。 十本の指ではおさまらない。

悲しいかな、慣れで登頂にそれほどの感動はないが、その時々に見せる
雲の動きや光の色はその都度違い自然の中に身を投じる喜びを禁じ得ない。

DSC01408.jpg

ツアーガイドの時はいつも「赤岳頂上山荘」に泊まっていたが個人ガイドでは
数年前から「赤岳展望荘」を利用するようになった。

赤岳山頂から少し下った標高2700mに建つ小屋だ。
稜線上にあり天水利用の小屋だが何と3~4人は入れる五右衛門風呂がある。

食事はビュッフェ方式で自分の食べられる分だけをセルフで取り、いただく。
したがって山小屋にとっては配膳の手間もなく、残飯も出ず合理的というか
とても理に適った手法である。

五衛門風呂

この時期の小屋はまだ宿泊者が少なく、食事もゆっくり寝床もゆったり取れて
五右衛門風呂にも一人のんびりと浸かることが出来た。

午後9時消灯、真夜中は満天の星空であった。
眼下には茅野の街灯りが深い闇に浮かんでいた。

翌日、小屋の廊下を騒がしく歩く足音で目が覚め、日の出の時を知らされる。
6月中旬の日の出時刻は4時30分前後、ダウンをはおり外に出る。

DSC01422.jpg

東の空は徐々に明るさを増し、遥か雲海の果てに薄らと秀麗富士の姿があった。

どんなに離れた場所からであっても、誰もが識別できる山、富士山。 
この山が見えるか見えないかで登山の高揚感がたちどころに違う不思議な山だ。

ふと西に目を向けると、そこにはまだ雪の残る北アルプスの山々が雲の中から
浮かび上がり城壁のように連なっていた。

乗鞍岳、穂高岳、槍ヶ岳、大天井岳、鹿島槍ヶ岳、白馬三山とはっきり見てとれた。
朝日を受けて僅かに赤味を帯び、それはそれは美しい光景であった。

雪の穂高

いつまでも見ていたい光景であったが、これは自然が造り出す一瞬の芸術。
時は刻々と過ぎ赤味は次第に消え失せ、モルゲンロートは終わった。

午前5時30分朝食。 6時20分、ツクモグサが待つ横岳へと向かう。

ツクモグサは日本固有種で学名にnipponicaの文字が入る。
本州では白馬岳と八ヶ岳だけに自生する岳人憧れの花である。

ツクモグサ

この花は八ヶ岳でも横岳の岩稜帯だけに分布している。
しかも、西斜面の人が近づけない急な岩場に多くある。

今年はどこの山でも花の開花が早いと聞いていた。
果して、出会うことが出来るだろうか。
岩陰にも目を凝らし、幾つかのツクモグサを見つけた。

ツクモ立ち姿

岩場にある僅かな草地からすくっと立ち、その花はあった。
白く細かい毛は寒さから身を守るためであろう。
薄いクリーム色の花はすこぶる気品に満ちていた。

朝はまだ早く開花している花をなかなか見つけられなかった。
ツクモグサは太陽の光が射さないと花(萼片)を開かないのだ。

この花の写真を撮りたかったら小屋で朝寝坊をむさぼった後がいいだろう。

チョウノスケソウ

この時季、八ヶ岳に登ると必ずお目にかかる花にチョウノスケソウがある。
いかにも人名らしい名前はツクモグサ同様、人の名前から付けられた。

楕円形の小さな葉に規則正しく並ぶ凹んだ葉脈が特徴だ。
まるで小判かわらじのような面白い形をしていてよく目立つ。
分類はバラ科の矮性低木、草のように見えるが草ではなく木である。

赤岳と阿弥陀

いつも花の写真ばかりが多くて山の写真が少ないとの指摘があるため今回は
山岳風景も少し載せてみた。

この写真は横岳から南の稜線を見たところ。左が主峰・赤岳で右が阿弥陀岳、
その間に中岳、そして小さく権現岳と編笠山が黒っぽく見える。
すなわち、南八ヶ岳の五つのピークが顔を揃える絶景ポイントである。

さらに、その奥には南アルプスの仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、北岳の雄姿もある。
(デジカメでは南アルプスまで写し込まれていないのが残念)

キバナシャクナゲ

クサリとハシゴの連続する険しい横岳を抜け、なだらかな山容の硫黄岳へ向かう。
登山道脇にはキバナシャクナゲ、ウルップソウ、ハクサンイチゲも咲いていた。

稜線の景色は硫黄岳の爆裂火口を最後に、赤岩の頭から赤岳鉱泉へと下った。
梅雨の晴れ間をぬって沢山の花を見た充実の八ヶ岳登山、感謝、感謝であった。
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プロフィール

杉浦直樹

Author:杉浦直樹
『自然塾』塾長の杉浦直樹です。
日本自然保護協会
自然観察指導員

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